オープンデータ×報道写真×ノーコードツールによる災害のリアルタイム・デジタルアーカイブ

2024-03-22

渡邉 英徳(東京大学大学院情報学環)

2024年1月1日,令和6年能登半島地震の発災直後,オープンデータとノーコードツールを活用して,ほぼリアルタイムでデジタルマップ・アーカイブを作成し,公開しました。また,新聞記者たちのボトムアップな活動により,被災状況を立体的に伝えるマップも作成されました。

これらのコンテンツには多数のアクセスがあり,SNSにおける安否状況の確認・マスメディア報道に活用されるなど,被災状況のすみやかな伝達と分析に貢献しました。これらの手法は,今後の災害対応に活かせると考えています。

オープンデータとフォトグラメトリを活用した3Dマップ

1月2日にオープンデータとして公開された国土地理院の空撮写真をもとに,STUDIO DUCKBILLがボランタリーに作成・公開した3Dフォトグラメトリ・データを活用。ノーコードツール「Cesium Stories」を用いてマッピングし,被災地の状況を立体的に把握可能なマップ「能登半島地震フォトグラメトリ・マップ」を,翌日の1月3日に公開しました。この手法は,ウクライナ戦争トルコ・シリア地震のデジタルアーカイブなどで培ってきたものです。

マップは,1日で100万ページビューのアクセスを記録し,能登現地で安否確認を行うアカウントで活用されるなどの反響がありました。さらに,NHK・TBSなど,マスメディアとも連携した報道も行なわれ,被災地の速やかな情報伝達と分析に貢献しました。今後は,被災直後の状況を立体的に伝えるデジタルアーカイブとして,参照されていくはずです。

記者たちが作成した被災状況マップ

1月1日,読売新聞のチームは,自社で撮影した被災地の写真とノーコードツール「ArcGIS Online」を活用して,写真の撮影場所を立体的に再現したストーリーテリング・マップ「令和6年能登半島地震被災状況マップ」を発災当日にリリースしました。コンテンツには1週間で約30万件を超えるアクセスがあり,国内外から大きな反響がありました。

この取り組みは,東京大学-読売新聞の,デジタルアーカイブ学術指導の枠組みから生まれたものです。2023年度から東京大学・教養学部で行われていた授業と同じカリキュラムでのデジタルアーカイブ作品制作の講習・実習のその経験が活かされています。

記者たちで作る能登地震被災状況マップ(記者の現場#7)

昨年春から渡邉先生の下でArcGISを学ぶ勉強会があり、そこで月1回ほどのペースで、ArcGISを使ったページの作成方法やコツ、課題制作などの講義を受けていました。

渡邉先生の授業の課題制作で、GPS情報入りの過去の水害写真を使ってページを試作するなど、自分でArcGISを使った作業をしていたので、操作方法には慣れていました。そのノウハウがあったので、ページの骨格をすぐに作ることができたんだと思います。

元日に起きた大地震に際して,報道機関全体としての体制が取りづらいなか,日頃の鍛錬と創意に基づいた,記者たちのボトムアップな活動が結実したコンテンツといえます。

まとめ

激甚災害に即時対応するために,オープンデータ・報道コンテンツとノーコードツールを組み合わせて,ほぼリアルタイムでデジタルマップ・アーカイブを作成・公開できることが実証されました。これらのアーカイブは,SNSにおける安否状況の確認・マスメディア報道に活用されるなど,被災状況のすみやかな伝達と分析に貢献できることも示されました。今回用いた手法は,今後の災害対応に活かせると考えています。